中古車選びで最も重要なのが、車両の品質を客観的に判断するための情報です。そして、その代表的なものが評価書となり、外車の中古車を検討する際には、ご購入後のリスクを抑える重要な出発点となります。以前に中古車選びについて解説しましたが、今回は評価書に焦点を当て、その詳細を深掘りしていきます。
なぜ中古車の評価書が重要なのか

中古車、特に外車の中古車に「本当に大丈夫かな?」と不安を感じるのは自然なことです。BMWのような人気車種でも、「維持費が高い」といった声を聞くかもしれません。しかし、その不安の多くは、車の状態に関する客観的な情報が不足していることに起因します。
中古車選びで最も重要なのは、車両の品質を客観的に示す「評価書」です。そのため、評価書を活用できれば車の状態や潜在的なリスクを事前に把握し、納得のいく一台を選ぶことができるでしょう。
どれを信じるべき?
まず、評価書にはどのような種類があり、どの評価書を信用すれば良いのでしょうか。評価書には主に以下の3種類があります。
1. 中古車販売店やディーラーによる自社検査:各店舗が独自に行う検査です。販売店によっては独自の基準を設けているところもありますが、基本的には販売店の判断に委ねられます。
2. オークション会場の検査員による検査(受託含む):中古車のオークションに出品される車両に対して、オークション会場の検査員が行う検査です。オークションという性質上、一定の基準で評価されます。
3. 車両検査専門の第三者機関による検査:中古車の品質評価を専門に行う、独立した第三者機関が行う検査です。
この中で、最も信頼性が高いのは3.車両検査専門の第三者機関による検査です。なぜなら、第三者機関は販売店や購入者と直接的な利害関係がないため、公平な立場で車両の状態を評価するからです。
主要な第三者機関と評価基準
中古車の大手ポータルサイトでは、信頼性の高い第三者機関の評価書が積極的に活用されています。主要な機関と評価書を以下にご紹介します。
- カーセンサー: 株式会社AISが車両査定と品質評価を主に担当しています。
- グーネット: JAAA(特定非営利活動法人日本自動車鑑定協会)が鑑定と品質評価を行っています。
これらの評価書には、修復歴の有無はもちろん、車両のキズやヘコミ、機関系の状態などが詳細に記載されています。購入を検討する際の貴重な判断材料となるため、必ず確認するようにしましょう。
ここでは、主要な評価機関であるAISとJAAAの評価書の見方について、解説します。
AIS評価点:総合的な車両の状態を10段階で評価

AIS(株式会社AIS)の評価点は、車両の総合的な状態をS点からR点までの10段階で示します。点数が高いほど車の状態が良く、低いほど損傷や使用感が目立ちます。
特に4.5点までは、比較的安心して購入できる車両が多いと言えます。一方で、3.5点以下やR点、1点の車両は、その状態を十分に理解し、納得した上で購入する必要があります。
AIS評価点 | 状態の目安 | 推奨される方 |
S | 登録12ヶ月未満、走行距離1万kmまで。ほぼ新車に近い状態です。 | 新車を検討中の方にも強くおすすめ。 |
6 | 登録36ヶ月未満、走行距離3万kmまで。非常に良好な状態です。 | 中古車でも品質を重視する方におすすめ。 |
5 | 走行距離5万kmまでで、内外装が非常にきれいな状態です。 | きれいな状態の中古車を探している方。登録3年以降では満点。 |
4.5 | 中古車としては、内外装ともに良好な状態です。 | 程度の良い中古車を求める方。 |
4 | 多少のキズやヘコミはあるが、全体的には良好な状態です。 | 細かいキズ・ヘコミが気にならない方。 |
3.5 | 多少のキズやヘコミなら気にならない方におすすめのレベルです。 | 予算を抑えつつ実用性を重視する方。 |
3 | 走行に支障はないが、キズやヘコミが多数見られます。 | 外観よりも価格を重視する方。 |
2 | 走行に支障はないが、大きなキズやヘコミがあります。 | 外観は気にせず、とにかく安く車が欲しい方。 |
1 | 冠水車などの特別瑕疵車両が該当します。 | 特殊な事情があるため、購入には十分な検討が必要。 |
R | 走行に支障がない修復歴車です。 | 修復歴車であると理解し、価格を重視する方。 |
JAAAの鑑定書:各部位の具体的な状態を詳細に記載

こちらはAISとは異なるアプローチで車両の状態を評価します。JAAAの鑑定書では、主に以下の4つの項目について詳細な評価が記号や図で示されます。
- 外装: 車体全体のキズ、ヘコミ、塗装の状態などを細かくチェックし、コメントで損傷箇所を示します。
- 内装: シートの汚れ、破れ、タバコの焦げ跡、内張りの状態、異臭の有無などを評価します。
- 機関: 主要機関系の動作や異音の有無などをチェックします。
- 骨格: 車の骨格部分に修復歴があるかどうかを明確に記載します。
JAAAの鑑定書は、総合評価点ではなく、各部位の具体的な状態を詳細に記載している点が特徴です。これにより、購入者は車両のどこにどのような損傷があるのか、より具体的に把握することができます。例えば、外装に小さなキズが多くても、骨格に問題がなければ、価格重視の購入者にとっては許容範囲となる場合もあります。
AISとJAAAの評価書は、それぞれ異なる視点から車両の状態を評価していますが、どちらも客観的な情報を提供してくれます。そのため、購入を検討している車両にこれらの評価書が添付されている場合は、必ず内容を隅々まで確認し、不明な点があれば販売店に質問しましょう。
「修復歴車」と「事故車」の違いを明確にする

中古車選びで多くの人が不安に感じるのが、「事故車」や「修復歴車」という言葉です。しかし、これらは混同されがちで、その正しい定義を理解することが、中古車を安心して購入するための第一歩となります。
「事故車」は広義の表現
一般的に「事故車」とは、文字通り「事故に遭った車両」を指します。駐車場でドアをこすってしまったり、バンパーをぶつけてへこませてしまったりといった軽微な接触事故でも、「事故を起こした車」という意味では「事故車」と言えます。
しかし、これらの軽微な損傷で車の骨格部分に影響がない場合は、中古車業界でいう「修復歴車」には該当しません。つまり、すべての「事故車」が「修復歴車」であるわけではないのです。
「修復歴車」の明確な定義
中古車業界において売買において最も重要視されるのが「修復歴車」です。修復歴車とは、車の骨格部分(フレーム)に損傷を受け、その損傷を修復した履歴のある車を指します。
車の骨格部分とは、以下の部位を指します。
- クロスメンバー(フロント・リヤ)
- サイドメンバー(フロント・リヤ)
- インサイドパネル・ダッシュパネル
- ピラー(フロント・センター・リヤ)
- ルーフ
- センターフロアパネル
- フロアサイドメンバー
- リヤフロア
これらのいずれかの部位を「交換」または「修正」した場合に「修復歴車」となります。
例えば、以下のようなケースは修復歴車に該当します。
- 追突事故で車の骨格であるフレームが曲がり、それを板金で修正した場合
- 横転事故でルーフパネルが大きくへこみ、交換した場合
- 縁石に乗り上げて足回りのインサイドパネルに大きな損傷があり、修理した場合
逆に、接触事故でドア(外側)に損傷があっても、その内側に位置する骨格に何もなければ修復歴車にはなりません。この違いを明確に理解することが、安心できる中古車取引に繋がります。
賢く見分ける!修復歴車のチェックポイント

修復歴車を避けたいと考えるのは当然です。ここでは、修復歴車かどうかを見分けるための主なチェックポイントをご紹介します。ただし、専門的な知識が必要な場合も多いため、最終的には信頼できる販売店やプロの鑑定士に任せるのが最も確実です。
1. 販売店に確認する
最も確実な方法は、販売店に直接確認することです。なぜなら中古車販売店には、修復歴の有無を告知する義務があります。曖昧な返答をされたり、情報を隠そうとする販売店は避けるべきです。
- 修復歴の有無: 「この車は修復歴車ですか?」と明確に質問しましょう。
- 修復箇所の詳細: 修復歴がある場合は、「どこをどのように修復したのか」を具体的に聞きましょう。また、修復箇所の写真や修理履歴などがあれば、見せてもらいましょう。
- 修復のレベル: どのような損傷で、どの程度のレベルで修理されたのかも確認できると安心です。
2. 鑑定書や車両状態評価書を確認する
多くの中古車販売店では、第三者機関による鑑定書や車両状態評価書を提示しています。これらの書類には、修復歴の有無だけでなく、車の内外装の状態や機関系の状態なども詳細に記載されています。
- AIS(日本自動車鑑定協会)の車両状態評価書
- JAAA(特定非営利活動法人日本自動車鑑定協会)の査定証
これらの書類があれば、客観的な情報に基づいて車の状態を判断できます。書類の有無を必ず確認し、内容をしっかりと読み解くことが大切です。
3. 目視で確認できる主なポイント
プロの鑑定士ほどではないにしても、購入者自身で目視できるチェックポイントもあります。
- 車体全体のバランス
- 左右の隙間: ドアやボンネット、トランクの閉まり具合や、フェンダーとの隙間が左右で均等かを確認します。修復されている場合、わずかなズレが生じていることがあります。
- チリ(パネルの隙間): パネルとパネルの隙間が均一であるかを確認します。不自然に広い、あるいは狭い箇所がないかを見ます。
- 塗装の状態
- 色の違い: 塗装し直されている場合、周囲のパネルと微妙に色が異なっていることがあります。特に、日光の下で見ると分かりやすい場合があります。
- 塗装のムラ: 塗装面に小さなブツブツやザラつき、ムラがないかを確認します。
- ボルトの塗装剥がれ
- ボンネットやドア、トランクの内側にあるヒンジ(蝶番)を固定するボルトに、工具で外した際にできた塗装の剥がれがないかを確認します。これは、そのパネルが一度外されて修理・交換された可能性を示唆します。
- 車体内部の骨格部分
- フレームやピラーの溶接跡: ボンネットを開けてフレームの先端や、ドアを開けてピラーの付け根付近を覗き込み、不自然な溶接跡や修正跡がないかを確認します。
- コーキングの状態: 溶接部分を密閉するために塗られているコーキング剤が、新車時とは異なる盛り方や、新しいものに塗り直された形跡がないかを確認します。
4. 走行中の違和感
可能であれば、必ず試乗を行いましょう。実際に運転してみることで、目視ではわからない不具合に気づくことがあります。
- 直進安定性: ハンドルをまっすぐにしていても車が左右どちらかに流れないかを確認します。
- 異音や振動: 走行中に不自然な異音や振動がないか、段差を乗り越えた際に足回りから異音がしないかなどを注意深く聞きましょう。
- ブレーキの効き具合: ブレーキを踏んだ際に、片効きしたり、ハンドルが取られたりしないかを確認します。
中古車購入時の注意点と安心の選び方

修復歴車に限らず、中古車を購入する際にはいくつかの注意点があります。
1. 信頼できる販売店を選ぶ
これが最も重要です。透明性のある情報開示を行い、質問に対して誠実に答えてくれる販売店を選びましょう。
- アフターサービス: 購入後の保証や点検、修理など、アフターサービスが充実しているかを確認しましょう。
- 口コミや評判: インターネット上の口コミサイトやレビューなどを参考に、販売店の評判を調べましょう。
- 中古車販売協会の加盟店: 中古車販売協会(JUなど)に加盟している販売店は、一定の基準を満たしている場合が多いです。
2. 試乗は必須
車の状態を把握するためには、実際に運転してみるのが一番です。
- 異なる速度域で走行: 低速だけでなく、幹線道路などである程度の速度を出して走行し、違和感がないかを確認しましょう。
- ハンドル操作: カーブでのハンドルの戻り具合や、操作時のフィーリングを確認しましょう。
- エアコンや電装品: 各種スイッチ類が正常に作動するか、エアコンの効き具合などを確認しましょう。
3. 保証内容の確認
中古車には通常、販売店による保証が付帯しています。
- 保証期間と走行距離: どれくらいの期間、どれくらいの走行距離まで保証されるのかを確認しましょう。
- 保証範囲: どの部品が保証の対象となるのか、消耗品は含まれるのかなどを詳しく確認しましょう。
- 免責事項: 保証が適用されないケース(例えば、ユーザーの過失による故障など)も確認しておきましょう。
まとめ:正しい知識で後悔のない中古車選びを!

「事故車」や「修復歴車」と聞くと、ついネガティブなイメージを抱きがちですが、その定義とリスク、そして見極め方を正しく理解すれば、賢く中古車を選ぶことができます。最も大切なのは、信頼できる中古車販売店を選び、疑問点はすべて解消してから購入することです。その出発点として、第三者機関による鑑定書や評価書は非常に有効なツールとなります。
この記事が、あなたの安心で後悔のない中古BMW選びの一助となれば幸いです。鑑定書は検討時の出発点として、購入後のサポート体制やご自身のメンテナンスへの意識も、安心安全なBMWライフには不可欠となります。ぜひ今回ご紹介したポイントを参考に、しっかりと状態を確認してみてくださいね。